come alive〜既婚Gの雑記帳〜

横浜在住40代既婚ゲイのひとりごとです。

妻。恋人。

三角波』という題の短編小説があります。

 

主人公は

結婚式を翌日に控えた巻子と

その婚約者の達夫。

そして達夫の部下であり、

運転手がわりでもある波多野という男性。

 

波多野はこれまで、

何時に達夫に呼び出されても

嫌な顔ひとつ見せずに車でやって来て、

上司の恋人である巻子にも

ハイヤーの運転手のように丁寧に、

礼儀正しく接してきました。

 

しかし、

巻子と達夫の婚約を知った途端、

波多野の態度は豹変します。

 

『今までハイヤーの運転手のように、

    音もなくドアを開け閉めしていたのが、

    バーンと叩きつけるような閉めかたをした。

    「おめでとうございます」

    とは言ったが引きつった顔で

    真直ぐ前を見たまま、

    巻子を見ようとはしなかった。』

 

そんな波多野の態度に疑問や不安を抱いた巻子は

友人のかよ子へ相談をします。

 

「彼の部下で、名前は言えないけど、

    その人、あたしに気があるみたいなの。」

 

波多野の事です。

 

「あたしのこと、見る目つきが違うのよ。

    からだのなか突き刺さりそうな目で、

    じっとにらみつけるの。

    その癖、あたしたちの新しい家に

    荷物運んだりするときは、

    ムキになって完璧に手伝うの」

 

更に波多野は、

巻子と達夫が引出物を見立てに行った

デパートにまで付いてきて、

 

『いつにない強引さで

    引出物に自分好みの銀のスプーンを押しつけ

    決めさせてしまったのだ。』

 

そうやって波多野は、

「わたしへ想いを寄せていることを

伝えようとしているのでは」、

と巻子は解釈したのです。

 

そして、挙式当日。

 

『結婚式を波多野は欠席した。

    巻子は自分の花嫁姿を

    見たくなかったのだと思った。』

 

更に巻子は

『気持ちのどこかに

    花嫁姿を波多野に見せたい』、

とまで思っていました。

 

巻子の抱いていた疑問や不安。

それは巻子と達夫が新居の借家に越してきて

初めて迎えた朝に、

巻子の胸の内とは真逆の答えとなって

はっきりとする事に。

 

『雨戸の外には波多野が立っていた。

    波多野は巻子を見てはいなかった。

    巻子の後ろに起きてきた達夫を見つめていた。

    片手に朝刊を持ち、

    パジャマのズボンに上半身裸の達夫も、

    それこそ菊人形のように動かなかった。』

 

『陽画と陰画が、ぐるりと入れ替わった。

    波多野が愛したのは、

    巻子ではなく、達夫だった。』

 

巻子は達夫に、「三角波」の話をします。

三角波が立つと、船は必ず沈むのかしら」

 

達夫は応えます。

「沈むとは限らないさ。

    やり過してなんとか助かる船も

    あるんじゃないのか」

 

そう言って、達夫は巻子の肩に手を添えます。

 

『その手を振り払おうか、 

    それとも肩のぬくもりを信じて

    このままじっとしていようか。』

 

物語では、「それから」の事は

書かれてはいません。

 

達夫の言った「やり過す」、「なんとか助かる」、

どんな心のうちなのでしょう。

 

僕も婚約中ではありましたが、

この物語ととても似た経験をしました。

 

妻と他愛ない話をしていたり、

息子たちと遊んでいたりしている

ふとした合間に、本当にふとした時に、

その頃のことを思い出したりします。

 

その話は、また後日。

 

引用:向田邦子

       『男どき女どき』より『三角波

         新潮文庫

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tak.